地デジ・スカパー! プレミアム・海外衛星を一本の同軸ケーブルにまとめてみた


地上デジタル放送と BS/CS 放送は一本の同軸ケーブルに纏められるが、スカパー! プレミアムはできない。なので、チューナーを別の部屋に移設すると線も引き直しになってしまうのだね。めんどくせえ、無理矢理一本に纏めるぜ!!

おことわり:

この記事で「スカパーP」と呼んでいるものは、専用パラボラアンテナと専用チューナーを必要とする「スカパー! プレミアムサービス」を指す。BS/CS アンテナで受信できる 「スカパー! (旧スカパー! e2)」 ではないので、気を付けてくれ。

できることできないこと
衛星放送と地デジの電波の違い
スカパーP と BS/CS が同居できない訳
スカパーP が部屋毎にアンテナと
チューナーを必要とする訳
4K/8K 放送の罠
偏波ってなんじゃい
やっと本題。実際の接続は?
できることできないこと

期待させておいてがっかりさせると悪いので、先に出来ることと出来ないことをまとめておくぜ。

スカパーP / 海外衛星チューナーを
別の部屋に移設
BS/CS とスカパーPと海外衛星を纏める×
地デジとスカパーPと海外衛星を纏める
複数の部屋でスカパーPや海外衛星を
同時に見る
×

気を付けてくれ。地デジとスカパー! プレミアムの混合をする場合、BS/CS は混合できなくなる。記者宅には BS/CS アンテナがないので問題がないのだ。

そんなわけで、この記事のテクニックが役立つのはかなーり限られた人なんだ…しかし、あまりにニッチすぎる記事では期待して来てくれた人に申し訳ないので、読み物として「へー、そうなんだー。なるほどー」と役立つように解説していくぜ。

衛星放送と地デジの電波の違い

地デジはテレビ塔から出ている 470~770MHz の周波数の信号をアンテナで受けてそのまま同軸ケーブルに伝える。CATV(ケーブルテレビ)も、宅内に設置された STB という装置から 70~770MHz の信号を同軸ケーブルに流して全部屋に送る。

しかし、衛星放送はそうではない。衛星放送は赤道上空 36,000Km の、地上からは静止して見える地球周回軌道から、3,000MHz(3GHz) ~ 13,000MHz(13GHz) という非常に高い周波数の電波で行われている。後述するが、周波数が高ければ高いほど同軸ケーブルに流した際の減衰度合いが激しくなり、13GHz の高周波信号などそのままではごくごく短距離しか伝送できない。そのため、パラボラアンテナのお皿の焦点位置にある LNB という部品は、電波を受信するだけでなく、その部品内で電波を増幅すると同時に 950MHz ~ 1,750MHz 程度の扱いやすい周波数に変換してから同軸ケーブルに伝えている。この回路を駆動するために衛星放送の受信には必ず電源が必要となり、チューナー (BS/CS の場合はテレビ) から 11V~18V の直流電流を同軸ケーブルに重畳している。

地デジは、テレビ塔がすぐ近くにあり、十分強い電波を受けられるのであればアンテナに電源は不要だ。

スカパーP と BS/CS が同居できない訳

下の図を見てくれ。緑の部分、地デジ(又は CATV) と BS/CS は受信アンテナは違っても混合器で電波を一本の同軸ケーブルに纏めることができる。

青い部分がスカパー! プレミアムで、オレンジの部分が海外衛星(国際放送)だ。周波数がかぶってしまっている。同じ周波数の信号を混ぜると波形が乱れて壊れてしまうため、それぞれの受信アンテナから、それぞれのチューナーのある部屋まで単独でアンテナ線を引いてくる必要がある。

スカパーP が部屋毎にアンテナとチューナーを必要とする訳

スカパー! プレミアムと海外衛星は、視聴するチャンネルによって偏波というものを切り替えて受信している。チューナーは、パラボラアンテナの焦点部にある受信増幅回路を駆動するために同軸ケーブルに直流電流を送っている。その際、チャンネルによって電圧を変えており、アンテナはこの電圧を基準にして水平偏波と垂直偏波のどちらを受信するかを決めている。

更に、スカパー! プレミアムに至っては、一つのアンテナで実は座標の異なる二つの衛星から電波を受けており、視聴するチャンネルによって衛星の切り替えも行っている。外見は BS/CS アンテナと向いている方角が若干違うだけで大差ないのだが、実はこんなことをしているのだ。

なぜこんな面倒なことをするのか。それは電波資源の有効活用のためだ。偏波が違うと、なんと周波数は同じでも互いに干渉せずに送受信できるのだ。つまり、チャンネル数を二倍にできる。代償として、複数の部屋で視聴しようとすると、それぞれの部屋にアンテナとアンテナ線、チューナーのセットが必要となってしまう。

一方、BS/CS では、この記事を書いている 2017 年現在では左旋円と呼ばれる偏波しか使用していない。2018 年から開始される 4K/8K 放送では右旋円も使用されるが、その場合でも同軸ケーブルを流れる信号の周波数にかぶらないように、既存の BS/CS が使用していない高い周波数に変換する。上の図ではクリーム色で示した部分だ。こうすることで、4K/8K 放送が始まっても一つの受信アンテナで、すべての部屋から同時に視聴できるって寸法だ。

4K/8K 放送の罠

一つの受信アンテナで、すべての部屋で視聴できる方法があるなら、スカパー! プレミアムも、海外衛星もそうしたらいいじゃない!! 周波数をかぶらないようにすればいいじゃない!! …と思うだろう。しかし、罠があるのだ。まず…

既存の設備は 2,600 MHz 程度までしか特性が保証されない

下の図は記者が使っている分配器の特性を測ったもので、製品のシールによると 2,610 MHz まで対応している。計測結果は 2,500MHz を超えたあたりから特性の振れが大きくなり、8K 放送の最高周波数の 3,224 MHz あたりから一気に特性が悪くなることがわかるが、なんとか 8K 放送に耐えてくれそうではある…と、このように製品仕様を超えて使用することになるため、賭けの要素が出てくる。

まあ、賭けに負けても分配器や混合分波器なんかは対応品に交換すればいいだろう。どのみち BS/CS アンテナ本体を右旋円偏波に対応したものに交換しなければ 4K/8K 放送は受信できないしな。しかし、もう一つ厄介な問題があるのだ。

ケーブルを流れる電波は、周波数が高くなるほど減衰が大きい

…のだ。下の表は同軸ケーブル 1m 当たりの信号減衰量 (dB) だ。

ケーブル地デジBSCS4K8K
5C-FV0.21    
5C-FB0.190.27   
S-5C-FB0.190.260.340.410.46
S-7C-FB0.140.190.250.310.35

さっぱりわからんな。んじゃ、信号源から 1m 先で元の信号の何パーセントの強さを維持しているかで。

ケーブル地デジBSCS4K8K
5C-FV95%    
5C-FB96%94%   
S-5C-FB96%94%92%91%90%
S-7C-FB97%96%94%93%92%

一般的な家庭で使われているケーブルは、新しめの建物なら S-5C-FB だが、古い家では 5C-FB や 5C-FV かもしれない。8K 放送の電波は、最新の S-5C-FB であってもアンテナから僅か 1m だけで 10% も減衰してしまうので、アンテナから遠い部屋では CS は見られても 4K/8K は映らないというケースが出てくるのだ。その場合、インラインブースターという電波増幅器を途中にかますか、ケーブル自体を特性の良い S-7C-FB ケーブルに交換する必要が出てくる…が、7C ケーブルは太く硬く高価だ。

5C-FB や 5C-FV は規格上衛星放送非対応のグレードの同軸ケーブルだが、BS なら見られていたような状況も結構あると思う。その場合は、ケーブルの全交換を免れないだろう。壁の中に隠蔽されている線は交換できないことが多いので、既存配線は放置して、露出で全配線をしなおすことになる。大ごとだな。

偏波ってなんじゃい

さっきから円偏波だの水平垂直偏波だの、一体何のことじゃい!! ということで、超さっくりと解説。下の図は偏波のイメージだ。

ま、そういうことだ。でもって、水平偏波の電波を受信するのには受信素子を水平に、垂直偏波の電波を受信するのには受信素子を垂直に設置する必要がある。角度がズレればズレるほど受信レベルが落ちる。

パラボラアンテナの場合は受信部 (LNB) の内部に90度角度の違う二本の受信アンテナがある。両偏波の電波をそれぞれ違う周波数帯に変換して同軸ケーブルに流せば、一つのアンテナで全チャンネル全部屋同時視聴が可能だ。しかし、その分広い帯域を必要とし、先に説明した 4K/8K 放送の罠が発生するため、通常はチューナーから送られる直流電源電圧の高低によってどちらか一方の偏波だけを 950~1,750MHz の範囲に変換して同軸ケーブルに流している。

地デジの場合は殆どの地域で水平偏波なのだが、所々垂直偏波で発信しているテレビ塔がある。この場合、地デジアンテナを垂直にするのだ。

水平偏波、垂直偏波については直感的に理解できるが、わけわからんのが円偏波だ。アンテナがぐるぐる回転してんのか? いやいや、そんなことはない。これについて補足しよう。円偏波は 90度角度を変えた二つのアンテナを組み合わせる、つまりハの字とか × だとか + だな。で、送信側は両方のアンテナ素子に全く同じ信号を入力するのではなく、片方には位相をずらした信号を入力する。かえるのうたの輪唱のように遅らせるわけだ。そうすることで、電界のあーこーが合成でベクトルがどーこーで、結果旋波が誕生する。又、位相のズラし具合で右旋波・左旋波が決まる。このあたりをぐぐって知識を深めようとすると、だんだん左が右で右が左で…あ、あれあれ? もうおらわかんねえぞ? と、かなり混乱すること間違いなしだ。

まったくややこしいもんだ。で、そのややこしい円偏波の利点だが…もちろんある。偏波角を気にしなくてもよくなるのだ。アンテナを垂直だろうが水平だろうが適当に斜めに設置しようが、変に反射したりして偏波角が変わっちまったようなクサレ電波が飛んでこようが、アンテナに電波が届きさえすれば受信できるような恰好だ。

これが直線偏波の場合はそうはいかない。実際に BS/CS アンテナとは異なり、スカパーPアンテナの電波受信部は回せるようになっている。

受信部 (LNB) 内部の受信素子の向きと、スカパーP衛星のアンテナの水平垂直を正しく向かい合わせる必要がある。地球は丸いため、緯度経度によって見かけの傾きも異なる。衛星は遠すぎて目視できないので、〇〇県〇〇市は偏波角ダイヤルを〇〇に合わせてください~のような説明になるってわけだ。

やっと本題。実際の接続は?

ああ、何とも恐ろしくながーい前置きだったな。本題に入ろう。

いきなり結論から言うと、接続図はこうだ。まあ…日本の普通の家庭には海外衛星チューナーはないだろうから、DiSEqC スイッチはいらんな。スカパー用アンテナを混合分波器に繋げばよろしい。

実際の屋根裏の配線はこんな感じ。

部屋側は、地デジテレビ、スカパーチューナー、海外衛星チューナーに分配。

まず、戒律がある。スカパーチューナーと海外衛星チューナーが同時に ON されている状況を作ってはならない。それぞれからのパラボラアンテナ駆動用の直流が混ざってしまう。下手すると駆動電圧が数ボルト低いスカパーアンテナが過電圧でぶっ壊れるかもしれない。まあ、そこまでシビアな設計ではないかもしれんが、やらんに越したことはない。

この接続の仕方は、DiSEqC スイッチをコントロールする切替信号が出ていない時、つまりスカパーチューナーのみが ON になっている状態にあるとき、DiSEqC スイッチが暗黙の了解で LNB1 ポートの先にあるアンテナへ繋いでくれることを期待している。実際にやってみたところ意図通り動いたのでそのように働いてくれているようだが、本当の所 DiSEqC スイッチの仕様定義がどういう動作を定めているのかは不明だ。

次、海外衛星チューナーのみが ON になっている状態。まず事前に同軸ケーブルをチューナーに繋がない状態で、チューナーに登録されている全ての衛星の DiSEqC ポートの設定を確実に LNB1 ポート以外、受信したい海外衛星用パラボラを繋いだポートに変更する。記者は一枚だけアンテナを建てているので、とりあえず LNB4 ポートに割り当てた。

たったこれだけだ。DiSEqC スイッチの働きにより、スカパーチューナーだけが動いているときは LNB1 ポートの先のスカパーアンテナに、海外衛星チューナーだけが動いているときは LNB4 ポートの先の海外衛星アンテナに接続されて視聴できる。

記者は海外衛星パラボラアンテナをモーターで回転させて静止軌道上の任意の衛星にアンテナを向けられるようにしているが、上記の DiSEqC のポートスイッチ機能と USALS (Universal Satellites Automatic Location System) による H-H モーター制御機能は共存できるので、何も問題は起きていない。

さて……。海外衛星チューナーが ON になっているとき、本当にスカパーPアンテナには、チューナーから送られてくるスカパー定格より数ボルト高い電圧がかかってしまっていないのか? という点が気になっているのだが…。

面倒なので一切検証していないw

数ヵ月使って壊れてないから大丈夫だろ、多分。

そういえば記者はこの後、海外衛星チューナーを長年使った南鮮製のものから、中国製の DVB-S2 ハイビジョン対応 & HDMI 端子装備のものに換えたのだが。

今時の製品は、ほんに小さくて安くて高性能じゃのお…。LAN に繋いでIPTV とか見られるし、オプションの無線 LAN アンテナつければ LAN ケーブル要らずだし、謎のキーコードを入力してスクランブルがかかったチャンネルをごにょごにょする機能までついてるし。

海外衛星チューナー Freesat V8 Super
(購入当時 39 ドル)

黒電話大将「おい、そこのチョッパリ!! 貴様も国際放送を視聴する変態同志となれ。さもなくば、ウリナラの無慈悲なチャーハンの雨が、無様に逃げ惑う悪辣なる敵の愚鈍な脳天を貫く槍となり、貴様を必ずや破滅せしめるであろう!!」

*「ウェー!! 偉大なる金正恩同志、パンニハムハサムニダ。マンセー!!」


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