DELL の30インチモニターを修理してみた


6年くらい前、当時12万円もした DELL の 3008WFP という PC モニタ。縦横比 16:10 で WQXGA (2560×1600) の解像度があるので仕事にぴったりだったのだが、先日煙を吹いてしまった。あわわわわ。転んでも負けないぞ。駄目元で修理してみよう。

なお、このテープは自動的に消滅する

とある朝、普段通り仕事をしていると電話が俺を呼び止めた。話をしている最中怪しい臭いに気付くと、モニターが煙を上げていた…

電話応対中だったこともあり、発火だけは防ごうととりあえずすぐ電源を切ったので写真がないが、イメージはこんな感じ。

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ボスに見捨てられちまった

修理にいくらかかるのだろうか…モニターのボス、デルのサポセンにダイヤルする。

♪悪徳業者に毟られて  ―  作詞/歌: 真時価 金無

受話器の向こう側でボス 申し訳なさそうにボス 「5年の保証期間が過ぎてしまっているので交換できません。このモデルは修理もできません。」

ボスは代わりに言うのさー 「後継機種をおすすめするしか…」 見積を貰ってみると なんてぇこったい13万

誰か彼等に伝えてーくれよー そんな高いモン買う気がせんわー ちょっと前なら買ったかもだけどー 必ず逝くから相場はやるなよー

必ず逝くから相場はやるなよー…

修理してみるか

さて…孫もいそうなおっさんおばさんにしかわからないネタはこれくらいにして、修理の方向性を考えてみる。

煙吹いた時も画面は映っていたから、まだ致命的に壊れてはいないのだろう。燃えた部品だけ自分で換えてみよう。もし他の個所の故障が原因でその部品が燃えていたのなら仕方ない、換えても再度燃えるようならその時はすっぱり諦めよう。

使った工具と部品
工具・部品規格 / 型番用途 / 備考
フィルムコンデンサー × 22W105 (1μF)Panasonic ECW-FD2W105J (1μF, 450V DC) を使用。115円/個
ショットキーバリアダイオード × 1V30120S (30A, 120V)STMicroelectronics STPS60170CT (60A, 170V) を使用。544円。
半田ごて100W放熱板や電子部品の取り外し
半田ごて30W電子部品の組み付け
半田吸い取り線 放熱板や電子部品の取り外し
半田 部品の取り外しと組み付け
プラスドライバー モニタ右下のボタン部の基板を除き普通の大きさ
ステンレスヘラ 外装外しに使った。スマホ分解用工具。
テスター 手を入れた個所がショートしたりしていないか確認
熱伝導グリス PCショップの一般品。放熱板同士の再接合に使う。数百円。
シリコンコーキング 部品の固定と鳴き止め対策。ホムセン建築コーナーの普通用途用。数百円。
アルコール メチルでもなんでも脱脂洗浄力があれば
アルミテープ 元々使われているのは接着面も電気を通す特殊なテープで、シールド板同士の電気的な接続を担う。のだが…高いので機能を無視して見た目だけ似ている台所用アルミテープでごまかす。
いきなり最難関なミッション

まず、外装を外すのが大変だ。近年の機器は見た目重視で外装の固定にネジが使われていないことが多い。代わりにプラスティックの爪で嵌め込まれているのだが、まーあ厄介なこと。

外し方は「俺の出来事」さんのブログ記事、液晶モニター修理 DELL 3008WFP と、「緋斐B級技研」さんのブログ記事、DELL製30インチ液晶 3008WFPを修理する。を参考にさせて頂いた。ありがとう!

表パネルと裏パネルの接合部の溝の間に何か硬くて薄いものを滑り込ませてぐりぐりするのだが、普通のマイナスドライバーでは肉厚すぎて溝に入りすらしない。俺はスマホ分解用のステンレスヘラを借りたが、肉厚が薄く、それでいて適度に幅広で力が一点に集中せずよかった。

ここで注意だ。モニタ前面右下のボタン類は裏に基板が小さいネジ二つで固定されているのだが、この基板につながっているフィルムケーブルは余長が全然ない上に、ご丁寧に内部でがっちりテープ留めされてしまっている。修理を試みる場合は少々無理をしても外装開腹中の少しの隙間からドライバーを突っ込んで先にネジを外してしまった方がいいだろう。ネジを外さずに開腹すると、フィルムケーブルがちぎれて大惨事になるかもしれない。

苦あれば楽あり

外装さえ外れちまえば、もうミッションの半分は達成したようなものだ。あとはシールド板同士をくっつけている導電性アルミテープを引っぺがし、ネジを外したりコネクタを外したり。基板部へのアクセスは難しくない。

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爆発音がした事件…いや、煙が出た事件の犯人

煙はモニタ向かって右側から出ていた。位置的に電源基板あたりがクセェな…の前に、本当に臭え。部品の焦げた特有の臭いがする。こいつに間違いないと外してみる。

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なかなか犯人が見つからなかったのだが遂に見つけた。吊り目でエラ…じゃなかった、丸顔のつるりとしたこいつが犯人のようだ。よく見えないが、青ざめてお漏らししてやがるようだ。

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放火犯は電源基板にいた。しかしこいつは写真右側のブ厚い放熱板の下に身を潜めており、放熱板を外すためにはレギュレータのネジを外す必要があり、そのネジを外すために手前にある無辜のコイルまで外す必要があるという。まったく罪深い奴だ。

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放熱板は足が数本半田で基板に固定されていて、これを外すには 100W 程度の半田ごてと半田吸い取り線が要る。ダメージを最小限に抑えるため、大熱量にちょっと半田を加えてさっと短時間で溶かし、素早く半田吸い取り線で除去する。もたもたしてると熱で基板表面の回路パターンが剥離したり、無実の電子部品が死んでミッション失敗なのでちょっとドキドキだ。

こいつが犯人のフィルムコンデンサー。左肩に亀裂が入り、緑色の内容物が漏れ出して固まっていた。灰色シリコンを取り去ると 2W105 の刻印が見える。105 ということは1μF だな。

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さて、犯人の身辺回路を見てみると、この犯人は双子の片割れであることが判明した。上の写真の犯人のすぐ下が兄弟だ。1μF のコンデンサーが並列になって 2μF として機能していたが、煙を吹きながらも画面が映っていたのはこういうわけだな。まあ、回路的にこいつらの機能はノイズ除けなので、二人とも犯人であってもとりあえず映る気はするが。

君の代わりなどいくらでもいるんだよ

さて、この双子のコンデンサー。片方は犯人ではなかったが、信用ならんので悪いが連帯責任で消えてもらう。代わりにパナソニック出身の色黒なナイスガイを採用だ。2W105 で検索するといくつも候補が上がるが、犯人より少し厚みがあるものの幅と足のピッチから ECW-FD2W105J に決めた。容量は 1μF、450V DC 耐圧なので、物理的に取り付きさえすれば問題はないはずだ。

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ついでにもう一人の容疑者も

俺の故障事例では、発煙はしたものの画面は映っていて、コンデンサーが犯人だった。しかし、参考にしたブログはみな電源すら入らない状態で、そちらでの犯人は電源基板上のもう一つの放熱板の下に隠れているショットキーバリアダイオード V30120S という三本足の奴ということだ。どうやらここはこのモニターの弱点個所らしい。予防保全でこの容疑者も切り捨てて、上位互換品の STPS60170CT に交換しておく…が、こちらの放熱板は外すのが更に面倒だ。

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更に、今回の故障には関係ないが、メイン基板上に一つだけパンクした電解コンデンサーを発見したので交換しておいた。メイン基板は電源基板より精密な多層構造と思われ、部品取り外しの際に基板のスルーホールを破壊してしまうと即ミッション失敗となる。何とか取り付けられはしたが表面のパターンを痛めてしまった。モニターを使っていても目に見える異常はなかったので、妊娠コンデンサーを見つけても心を鬼にして無視した方がよかったかもしれない。

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元通りに組み上げるが

部品を取り外す際にそこかしこに接着されていた灰色のシリコンを除去したので、外した放熱板を取り付ける前に元通りに接着した。電源基板はコンセント電圧がかかる回路なので、部品の固定と部品から出る鳴きや振動を抑える目的でシリコンで留められていると思われる。まあ手持ちがなかったらつけなかっただろう。使ったシリコンはホムセンで売っている普通の建築用の白いもの。元々百数十度に耐えるので高価な高耐熱シリコンは不要。

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放熱板に塗られていた熱伝導グリスが劣化して固まってしまっていたので、全て除去した後、アルコールで拭いて脱脂と洗浄。

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新しい熱伝導グリスを放熱板に薄くうすーくまんべんなく塗ってから元通り組み付ける。先のシリコンと違ってグリスは省略できないのでわざわざ買ってきた。無いと放熱板の接合部に空気の層ができて廃熱がうまくできず、直ちに影響はなくてもそのうち壊れるのが目に見えている。

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放熱板を取り付ける前に、取り外したレギュレータに塗られていたグリスも剥がして塗りなおしておく。外されてしまった無辜のコイルも再び取り付けてシリコンで再固定する。下の写真は完成した電源基板をシャーシに取り付けたところ。シャーシと基板の放熱板も熱伝導グリスで密着させる。

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シールド板とシャーシに貼られていた導電性アルミテープは新しく貼…そんなもの持ってねえ。高価だし他に使い道もなく買う気がしないので手持ちの台所用アルミテープを貼っておく。見た目はそっくりだがこれは粘着面が邪魔で電気を通さない。いや、粘着面がコンデンサーになりそうな気がしないでもない。まあどうでもいいや。ボタン部付近のフィルムケーブルはダイソーのはがせる両面テープで固定しておいた。外装を嵌め込む前に動作試験して完了。念のためシリコンが完全に固まるまで数日放置。

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完成

なおった。数ヵ月使ったが今のところ特に異常は見られない。任務は成功だ。

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なんかネジだのが残ったが…見なかったことにする。

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「DELL の30インチモニターを修理してみた」への6件のフィードバック

  1. 初めまして福岡の和田と申します。私のdell液晶モニター3007wfpも不具合が出ていまして、治せないかと色々調べていたらそちら様にたどり着きました。チラつきがあり、叩くと治るみたいな症状です。有料で治してもらえませんでしょうか?

    1. 和田様

      叩くと治る系や症状が出たりでなかったりするケースでは、単純に半田付け箇所がミクロレベルで接触不良を起こしているケースが多いような気がします。
      USB 扇風機程度の単純なものであれば基盤上の全ての半田付け箇所を溶かしなおすと治せたりしますが、液晶ディスプレイともなると膨大な半田付け箇所とパターンの細かさから現実的ではありません。
      実は私の DELL ディスプレイも大分前から縦に一本色がおかしなラインが出たりでなかったりする状況になってしまっているのですが、とても個人レベルで治せるものではないので無視して使っています。

  2. こんにちは。
    楽しく拝見させて頂きました。ありがとうございます。
    すばらしい修理技術と解説に脱帽です。わたしも貪欲に修行を重ね、おいしょまん様の足元のレベルにまで到達したいです。申し遅れました。高知在住の山本と申します。実は今東芝のレグザ42ZP3というテレビ修理に格闘してます。症状は地デジ視聴中に電源が勝手についたり消えたりします。また、リモコンの番組表ボタンを押すと電源が落ちます。電源は上記の症状と同じように10数秒後に再び入ります。ネット検索するとレグザは電源基板の半田割れが多いらしく、その修理を私も実行しました。数時間かけ半田溶かしなおし、盛り直しをしました。しかし症状は治まりません。更にネット検索で電源が勝手についたり消えたりはメイン基板交換で治ったという情報を元にメイン基板をチェック及びクリーニングしましたが原因不明です。今疑っているのは、①ソフト面プログラムのバグ、②ハイブリッドコンデンサ、③メイン基板上メモリ、④メイン基板上の地デジチューナーユニット内の異常、唐突で恐縮ですが、上記症状からおいしょまん様のお見立てや修理のヒントをおしえて頂けないでしょうか?誠に一方的で無作法でいきなり恐縮ですが、どうかよろしくお願いします。m(_ _)m

    1. なんとなくで適当やってみてダメだと諦めちゃうんですよね、わたし。
      最近諦めたテレビがなぜかまた調子よくなって勝手に電源入ったり切れたりしなくなっているという…。

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